6.編集後記
最近、カスハラという言葉がマスコミを騒がせている。省略好きな日本人だが、真の意味は、カスタマーハラスメント(Customer abuse)のことを言う。これは、暴行・脅迫・暴言・不当などの要求といった、顧客による理不尽で著しい迷惑行為のことを指している。勿論、欧米には「customer harassment」という用語は存在せず、日本独特の現象を英訳しただけである。日本では2010年代前半頃から、悪質なクレーマーに対して「カスタマーハラスメント」の名称を用いる動きが見られるようになっている。厚生労働省は2022年にカスハラ対策マニュアルを作成し、企業が従業員を守るために対応すべき課題の一つとしているようだ。
しかしながら、海外では、2019年6月、国際労働機関の総会において、カスタマーハラスメントを含む暴力やハラスメントの廃絶を目指すハラスメント禁止条約を採択し、日本も賛成したが、批准は見送られている。
或る民謡家が「お客様は神様です」という流行語と軌を一にして、デパートなどで一般消費者が自分を神様と勘違いして上から目線で振舞うようになった。思い起こせば、B-to-Cの世界であり、日本では長らくB-to-Bの世界で「サプハラ:サプライヤーハラスメント(筆者の新語)」が横行していた、また今も蔓延っているかも知れない。
直近の公取からの情報:「某大手自動車会社の態度は横柄だ。売買取引価格について『年数%分割り引くので、よろしく』と当たり前のように言ってくるし、こんなひどい会社はない」。大手自動車会社に部品を供給するサプライヤーの幹部はこう憤る。このサプライヤーはかつて売り上げの6~7割がN社向けだった。今その割合は低下し、他社との取引を増やしている。部品会社の幹部は「生産量も事前の綿密な相談もなく急に減らされる。それが一転、突然、『車が売れてきたから部品を供給してくれ。できるでしょ?』と言ってくる。そんなの無理。我々と一緒にものづくりをしていこうという配慮のかけらも感じられない」と吐き捨てる。同自動車N会社は3月、公正取引委員会から「下請法違反行為があった」として再発防止を求める勧告を受けた。車部品サプライヤー36社に対し、発注時に決めた金額から「割戻金」として一部を差し引いた代金を支払っていた。サプライヤーに対し約30億円を返納したと言う。
これこそ日本の悪しき商慣習であり、筆者が名付けた「サプハラ」ではないか。海外で長く実際に購買取引をしているとサプライヤーは稀少で貴重な存在だと改めて認識する。つまり、これらのサプライヤーがいなければ工場で何も生産できないからで、欧米流の「サプライヤーから選ばれる顧客モデル」(Supplier preferencing)を示して読者のマインドセットに期待したい。サプライヤー・プリフェレンシングは、もともと戦略的な購買思考を推進する目的で考案されたものではなく、営業とマーケティングの世界から生まれたもので、それらの職種がアカウント戦略を策定するために使用されていたという経緯がある。
このツールは、カテゴリーチームがサプライヤーの立場に立ち、「アカウント顧客の魅力」と「アカウント顧客の相対的価値」に基づいて、サプライヤーの視点からアカウント顧客を見ることを要求している。
魅力的なアカウントとは、サプライヤーにとって顧客のビジネスがどの程度魅力的かを示すもので、戦略的整合性、地理的位置、ブランド力、収益の規模と予測可能性、取引のし易さ、支払い実績などの要素が含まれる。アカウントの相対的価値は、顧客のアカウントがサプライヤーの全体的な財務実績に対してどの程度の貢献をしているかを示すものだ。サプライヤーのプロフィールが何処にプロットされるかに基づいて、顧客に対するサプライヤーの行動と態度の明確なタイプが明らかになると予想される。参考までに以下に四象限を示しておく:

以下余白
月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA