6.編集後記
俗に言う「ナンバー2症候群」が横行する社会がある。今回のドジャース・大谷選手の元通訳、水原一平氏を巡る賭博スキャンダルのことだが、単に通訳のみに言及すると、この症候群が現実味を帯びる。要するに通訳が意訳や異訳を越えて自分の意志や感想を発することを言う。筆者の知人でアセアン諸国に駐在経験のある日本人から次のような話を聞いたので、読者の参考に供したい。
→自分は、日系企業が数十社集まる工業団地にいたが、現地国へ進出前で苦労したことは人事面であり、特に社員の採用である。特に「ナンバー2症候群」とでも言おうか、日本人社長の右腕になる社員が会社を牛耳ってしまうケースが多々あることだ。一般に、現地国進出時に一番最初に採用した日本語を話せる女性が通訳として雇われ日本人社長の性格を熟知した段階で問題が起こる。この「最初の一人」は後の管理職・技術者採用などに大きな影響を与えるので大いに注意が必要だ。日本人社長ほか役員が知らない内に、この通訳の親族や交友関係から採用候補が出てきてしまうのだ。←
多くの日系企業では日本語が話せる女性・男性が重宝される傾向があり、同社内で大きな影響力を持ってくることに注視、また監視すべきである。彼等彼女等は、人事採用は勿論、社内での不正に関わることも大いにある。本人は、通訳という職務記述書から逸脱して勝手にナンバー2と思い上がり、人事部に圧力をかけ、社員採用時の履歴書を勝手に選定し自身の知人等が有利になるように仕向ける、社内人事で自身と仲が良い人間を昇格・昇給させようと試みる、また昇給・昇格の判断材料となる資料に都合の良い情報のみを記載するなど枚挙に暇がない。日本人社長や役員は、主に日本語または英語で指示を出すが、その指示を日本人がわからない現地語で都合よく解釈し社員に伝えることである。筆者の知人も赴任当初からこのナンバー2の言動に違和感があったというものの、駐在当初は文化的要素も否定できず、細かい問題発覚までに半年以上掛かったと言う。会社の規模にも因るが、知人の会社では、殆どの管理職が最低限の英語の知識があったため、通訳等を介さずフェースツーフェースで打合せを重ね、信頼関係を築くことができた。英語圏以外の外国では、勿論、言語問題もあるが、できるだけ多くの社員とone-to-oneで継続的に情報交換をすることは駐在員の基本であろう。
そこで冒頭の大谷選手の話に戻ると、この事件は、まだ始まったばかりであるが、毎日30分でも余計に時間を作って現地の言語と文法を学ぶことを勧めたい。日本の語学教育は文法ばかりで会話をしないから話せないというのは全くの素人の考えであり、記者会見やインタビューでは文法を疎かにすると相手に通じないのは誰でもわかることだ。野球場のベンチでの会話は英語でなくともボディランゲージで通じるため意思疎通がうまくいたっと誤解する日本人選手は多い。ヒーローインタビューを現地語でやれれば一人前であり、チーム内で尊敬され輪に入れる。昔の話で恐縮だが、ある米国人野球選手が日本のプロ野球に来て、中々ヒットが打てなかったが、日本語が上達するにしたがいヒットを連発するようになったと聞いたことがある。全く同じ話をハワイから大相撲に入門した外国人からも聞いたので、あながち間違ってはいないだろう。但し、岡本綾子プロのように英語を上手に話せなくとも、数多くの現地の友人がいれば話は全く別で人柄に負うところが大きいのだと思う。海外赴任予定の人は、英語に加え、赴任地の言語を少しでも学ぶことを勧めたい。
以下余白
月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA