2023年10月報告

2.編集後記

米機関紙インサイドサプライマネジメント誌9月号に驚くべき記事が載った。つまり、Your Supply Chain Isn’t Ready for the Next War(貴社のサプライチェーンは次の戦争への準備をしていない。)というものだ。筆者は、この題目を見て非常に驚いた、と言うか、海外では遂に戦争という文字を使っているのかと思った。

多くの日本人は、これを見ても脅威と感じないかも知れないが、筆者は、ここまで来ているのかという印象だった。日本のマスコミは他国に忖度、或いは気を遣って直截的に書かないようだが、欧米のメディアは異なるため「民主主義と独裁国家間の競争」と明確に書く。大学や大学院で話しても学生の反応はかなり鈍い、と言うか無関心の者が多い。恐らく自身のこととは捉えていないからだろう。人間は自分に関係ないことは頭から棄て去る傾向があるのは理解できるが、企業人までも同じであれば、企業のグローバル化が聞いてあきれる。つまり世界の潮流をまともに捉えていないからだと言える。

前誌では、更に踏み込んでし「多くの購買調達職は、通常、サプライチェーンと事業運営全体に対する戦争リスクを考慮に入れないが、これは、多くの企業経営者にも当て嵌まる。」 そして、次の紛争は何になるのだろうかとまで問いかけて、三つの仮想的な例を挙げ、産業界を含む社会全体が直面するかも知れない新たな課題を浮き彫りにしている。

(1) 東ヨーロッパにおける紛争激化、(2) 「グレーゾーン」紛争、(3) 東アジアにおける直接の「大国」紛争である。

最後には、サプライマネジャーが、より頻繁かつ複雑で前例のない激しい軍事紛争を含む、大規模で予測不可能な将来の地政学的環境において組織を生き残れる立場に置くためには、今日から計画を開始しなければならない、と締めている。

確かに戦争や紛争という文字は他人事、他国のことと思いがちだが、現実に海外で生きている日本人には切実な問題だ。しかしながら、本国の日本では、意思疎通が滞るため、「OKY」となってしまう。これは 「O(おまえが)K(ここへ来て)Y(やってみろ)」の略で、企業の海外駐在員たちの間で一種の隠語として使われている言葉だ。現地の事情を知らずに、日本から無理な指示や要求ばかり送ってくる上司の無理解や、現地側と本社側との意識の差異を象徴するもので、経済のグローバル化や国内の少子高齢化を背景に、海外進出に活路を求める日本企業が増える中、異文化への適応に悪戦苦闘するビジネスパーソンの心の叫びとして広く知られている。

筆者も海外で戦争を何度か経験したが、半世紀前では通信事情が貧弱で、本国からの支援も数カ月遅れだったため却って現地では自由に行動できた。

とは言うものの、海外駐在員が心の中で叫ぶのが「OKY」だ。海外進出を成功させるには、異文化に適応できる柔軟性と精神が強い、優れたグローバル人材を現地のリーダーとして送り込むことが必須だが、それだけでは足りない。送り出す本社側にも、文化、嗜好、制度、価値観などあらゆる違いを常に意識し、現地の出来事を“自分事”として捉えるグローバルマインドセットが求められるのではないだろうか。

以下余白

月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人