2.編集後記
米サプライマネジメント協会のThomas W. Derryが5月の世界年次大会で話したことが印象的だった。同氏曰く 『新型コロナウイルス流行の真っ只中、企業はサプライマネジメント職に給与の増額や賞与を与え、資材調達に関する多くの課題を克服する必要な人材を確保してきた。現在、同危機はほぼ過ぎ去り、給与は横這いになっているが、サプライマネジメント機能の課題がより戦略的になり、範囲が拡大するにつれ、その将来性に期待が持てる。サプライマネジメント機能は、現下のESG 構想を精査、練り上げ、レジリエンス・復旧回復力を確立し、より地域に基づいた調達制度への長期的な方向転換を主導するものだ。これらの緊要な取り組みをまとめる優秀な人材の獲得競争が、将来の同職の給与の増額、更には、社内外の地位向上に繋がる。』 トムの発言は、非常に嬉しいが、米国内では実際に人材不足が続いているようだ。
また、MRA Global Sourcing社のパートナーNaseem Malikも同様に次のように述べているのも心を打つ。同氏曰く 『世界経済全体で、景気後退が起こるのか、起こらないのか、今は、実に宙ぶらりんの状態が続いている。情報システム部門では人員削減が先行し、その勢いは他の企業でも感じられる。情報技術は進歩し続け、特定のスキルセットが必要であること、企業は、近隣調達と国内回帰のサプライチェーンに目を向けており、メキシコとかベトナムとかヨーロッパにおける調達方法を知っている購買職を必要としていることから、サプライチェーン人材に対する需要は今後も続く。』 この中で面白いのは、米国流のnearshore / reshore という表現を使っていることだ。少し前に、米財務長官ジャネット・イエレンJanet Louise Yellenが、”friend-shoring” という言葉を使っている。このフレンド・ショアリングとは、ある国が同盟国や友好国など近しい関係にある国に限定したサプライチェーンを構築することを意味している。いわゆるoffshoringの派生語句であり、今後も経済学者から発せられるだろう。
この概念は、2016年より米中間の貿易摩擦を背景に米国が自国の経済安全保障を目的として始めたサプライチェーンの強化体制を指すものだが、直近では、コロナ禍による物流の停滞やロシアのウクライナ侵攻による小麦やエネルギー供給の危機などもあり、米国のみならず他国も同様にサプライチェーンの見直しを迫られている。そして、同志国との安全で信頼できる関係をより重視していこうというフレンド・ショアリングの動きも拡がりつつある。
日本も現下の世界情勢の変化による影響を大きく受けていて、多くの日本企業がビジネスモデルの変革やサプライチェーンの再構築を迫られているのは事実だ。世界の潮流に乗り遅れないことも必要ではあるが、米中に次ぐ経済大国である日本は、独自のビジョン、ミッションをもって世界に対峙するのはどうだろうか。欧米の行動を横目で睨みながら中々自国のメッセージが出せなかったが、今こそグローバル規模の最適なサプライチェーン経営を国是として取り組むことが求められる気がしている。
以下余白
月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人