2023年5月報告

2.編集後記

外資系BSMプラットフォームからの日系企業への売り込みが激しい。BSMとは、企業の経費や購買といった取引データを管理し、支出を適正化することを指しBusiness Spend Managementのことであり、欧米などの先進国では、大企業はもちろん、中小企業まで広く浸透している経営手法だ。企業の支出管理の歴史は1973年まで遡ると言われている。表面だけ見れば可視化という文句に引きずられることが多く一般の経営者は、即採用を担当部署に指示する場合が多い。実務担当者に聞くと使い勝手が悪く、背景と環境整備に著しい時間と労力が必要らしい。確かに「ビジネス・スペンド・マネジメント」自体は数十年前から存在している領域であり、企業は自社のデータセンターやサーバーにERPやCRMなど様々なビジネスアプリケーションを導入し、予算管理や戦略分析、在庫管理を行ってきた。ただ、このBSMの市場は拡大することが予測されており、2018年には70億ドルだが、年率10%強で成長し、2027年には170億ドルを越える市場規模になると言う。導入までの時間が長く価格も非常に高価だったERPが、クラウド化やSaaSの急成長により、大企業から中小企業まで様々な企業が導入することができるようになった。BSMはそのような段階なので、これから大いに伸びていくだろうと言われている。

デモ機でサンプル的な実験をしてみると経営企画職が喜びそうな様々な図形が即座に表れるので、ある程度大きな絵が描けるが、実務上、どう活かすかが問題だ。と言うのも商慣習と支出概念が欧米と日本ではかなり異なり、何でも卓上で済まされないことが多いからだ。

BSMの販売社員情報では、支出管理がデジタル化されることで、「誰が」「いくら」「何処に」支払いをしているのかが一目瞭然になり、支出に無駄がないか手軽に分析できる上に、適正な金額での購買が可能になる、と豪語する。後者の適正価格の購買は取って付けたようなセールストーク(販促営業手法)だが、支出管理自体は実行が遅れている日本企業では検討すべきものだ。ここで外資系BSMシステムを導入する有利性を点検してみよう:

1)社内のコスト削減意識が高まる:コストを可視化すると、社内のコスト削減意識を高めることができ適正な購買ができているかをチェックする機能が備わる。⇒現実に可視化できたとしても誰がチェックして違反者を突き止め如何にして罰するかが課題だ。社内で権限のない社員が自由に購買行為を行える実態は異常であり、そこに日本人特有の曖昧さは許されない。

2)集中購買が可能になり、サプライヤーとの交渉が有利になる:今まで事業所や部門ごとにそれぞれで発注していた資材なども、本社で一括して購買することでまとめ買いができるようになり、サプライヤーとの価格交渉が有利になる。⇒これこそIT営業が嘯く発言だが、実務経験がない営業社員が言うべきことではない。集中購買と分散購買の中核概念を知り尽くしている購買専門職には絶対に通用しない営業トークだ。

3)コンプライアンスを遵守できる:取引に使用したサプライヤーや価格などをデータ化でき、調達先を見える化できるため、何故そのサプライヤーを選定したかという理由を明確にできるため、コンプライアンスの観点からも理想的だ。⇒確かに法令遵守という視点からは可視化の意味があるかも知れない。前述したように権限のある誰が(CPO・CFO)専門知識をもってコンプライアンス違反を見抜き、制裁を加えるか。社内規則(社則)違反者を取り締まることができ、社則を全社で周知徹底することが求められる。

4)経営方針に合った購買ができる:業績の悪化に悩む企業にとって、支出の無駄を減らし、経営を改善することは大変重要な課題であり、不景気が続く現代の企業においては、企業の貴重な資金を戦略的に使用することが求められる。支出管理システムを活用することで、「お金を本当に必要なところに、必要な分だけ使う」という、企業の方針に沿った購買が可能になる。⇒これはデジタル化とは全く観点が違う発想だ。一般に新人営業職のセールストークとしか思えないし、経営者には通じないだろう。企業では、自社の社員は不要な支出をしないという性善説という前提で事業を行っているが、現実には、必要不要の線引きが曖昧で、役員達が自由裁量で支出することが多く、この点をチェックできないことだ。社則、調達規則、圧倒的な権限移譲こそ経営トップが指揮すべき事項であり、ITシステムとは関係がないことを肝に銘じるべきだろう。

事程左様に、デジタル化で支出実績を可視化できるのは素晴らしいことだが、これまで可視化されていなかったのかと言えばそうでもない。可視化して分析した社員が社内で権限をもってPDCAを回してこなかったことが問題だ。欧米流のC-suiteが責任と権限をもって社内の支出を監視して指摘するという単純な経営組織が構築されていないことが問題であり、ここに反省が求められる。

以下余白

月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人