2023年2月報告

3.おわりに:

「分断された世界における協力の姿」をテーマに、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会2023所謂ダボス会議が1月20日に閉幕した。今回の年次総会では特に食糧、エネルギー、気候という最も緊急な危機への取り組みで進展が見られ、世界は現在、より分断されているが、明日もそうである必要はないというのが、自分がこの一週間で得た最大の教訓だと識者は述べている。

この手の会議が三年間対面で停止されていたのは実に残念である。生身の人間は実際に向き合って話すことによりオンラインで味わえない息を感じるのが大切と思っている。今回の2023年の「ダボス会議」の成果は、コロナ禍を経て三年ぶりに2700人以上が集うことができたのは大きいと言っている。何より、昨年5月開催よりも参加者の顔が明るかったのが印象的だったようだ。皆に会え、目を見てしっかり話ができたことが大きいのだろう。参加者からは、様々なテーマについて建設的な議論を展開できたとの声が多く聞かれた。

国際会議での日本人の存在感が常に問題になる。日本人に有りがちなのは、登壇時点では皆さんと議論したいと言うものの、壇を降りるとさっさと帰ってしまう著名人も多いからだ。過去の話になるが筆者が、ベルシーBercyのフランス経済・財務省(Ministère des E’conomie et des Finances)にて講演した際、講演後の立食パーティーでは、500人近い経済人(主にサプライチェーン関係者)が各卓上で喧々諤々の議論をしていたことを思い出す。日本人でも語学達者な人は多いと思うが、語学だけでは、欧米人と対等には中々話せない気がする。これは、学校教育にも問題があるのではないだろうか。教師も訓練を受けていないと生徒を議論に誘導できないが、かと言って日本人の国民性が原因とは言いたくない。日本政府もグローバル人材の育成を掲げているが、統一した見解が不十分な気がする。ここに少し政府の定義を列挙してみる:

文部科学省の定義

○ 「グローバル人材」の概念を整理すると、概ね、以下のような要素。
要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
○ このほか、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異 質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等。

総務省の定義

「グローバル人材」とは、第2期計画において、日本人としてのアイデンティティや 日本の文化に対する深い理解を前提として、ⅰ)豊かな語学力・コミュニケーション能 力、ⅱ)主体性・積極性、ⅲ)異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材のこと。

人材育成推進会議の定義(首相官邸)

○ 我が国がこれからのグローバル化した世界の経済・社会の中にあって育 成・活用していくべき「グローバル人材」の概念を整理すると、概ね、以下 のような要素が含まれるものと考えられる。
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任 感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

【政府見解】上記からグローバル人材とは、語学が堪能なのは勿論のこと、日本人としての考えを根本に持ちつつ、相手の立場になって意見を主張したり、異文化の人々とも協力し合える姿勢を持つ人材のことだと言えます。

上記のダボス会議日本代表曰く「これまではグローバルの活動に日本人の参加を促す形式を取ってきたが、今後は日本が直面している課題にも目を向け、インクルーシブな新たな資本主義の形を見出すことで国外の学びに繋げることもできるのではと考えている。経済や社会の構造を変革し、長寿かつ健康で、生産性が高い国を創るにはどうすれば良いか。これらのテーマも日本の共同社会の中で取り組むかも知れない。」

こういう締めくくりだったが、実際に何処まで多くの人と交わり何を議論したかは参加していないと見えてこない。このダボス会議で、日本経済再生の道と題するセッションのパネリストとして参加したサントリーホールディングスの新浪剛史社長の話「今こそ日本を大きく変えるチャンス」の一部を以下に抜粋する:

1)このおよそ30年間で企業を中心に経済が新しいものを取り入れて変えていく力がなくなってしまった。賃上げは起こらず活力がなくなり、国際競争力も失ってしまった。痛みを伴う改革を避けて「現状維持病」とも言うべき病に罹ってしまい、この病はコロナ禍で再発して、諦めムードが広がっている。

2)日本は決して資金がないわけではなく、実行力もあり、何よりも現場が強い。そういった意味で失った自信を回復させるきっかけが必要で、そのきっかけとなる事態が今、まさに起きている。およそ4%の物価上昇が起き、世界の平和が当たり前ではない時代になり、今こそ、日本のあるべき姿を考えるタイミングで、大きく変えるチャンスだ。

3)日本企業や日本経済に求められることは、スタートアップを含めて新しい企業、おもしろい企業が生まれることが必要だ。そのためには、企業の新陳代謝を促すとともに、人材と雇用の流動化も必要になる。「世帯収入」が継続的に上がっていく仕組みを作ることも重要で、特に女性の働き方が非正規ではなく、正規を中心としたものに変わっていくべきだ。世帯収入が増えれば、少子化対策にも繋がる。

4)先端のテクノロジーに関して、日本は米国と連携して、中国とのデカップリングを進めるというメッセージを発することが重要だ。日本は常に米国だけを頼りにするのではなく、米国にも問題はあることを認識して付き合っていくべきだ。日本はアジアの自由貿易の旗頭として、RCEPや、IPEFなど様々な経済の繋がりを持っている。日本が今年のG7の議長国として、自由貿易の中心という役割を果たすことを期待したい。

若干政府見解に近い発言だが、汗を流す実務家として米国一辺倒を変える意欲が窺える。以前も話したが、会議場で英語でなく米語で大きく喚く人達とは互いに「第三国語:母国語以外の言語」で話すように提案すべきだと思うが、如何だろうか。

以下余白

月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会