3.おわりに:
これからの企業はVUCA時代に順応できる、変化に強く柔軟性の高い組織作りが必要となる。特にこの時代は、人的資源開発の刷新や社内外関係者への積極的な情報発信が求められよう。長く取り沙汰されてきた、いわゆる日本型の雇用システムを継続している企業は、益々経営が難しくなってくるだろう。
これまでの常識が通用しないVUCA時代に対応するには、慣例にとらわれず互いの多様性を認め合える柔軟な思考を持つ人材が求められる。また、ビジネス環境の変化を敏感に感じ、自分で考え行動できる人材の育成も急がれるのは当然だろう。
VUCA時代に企業の競争力を向上させるため、将来の経営戦略の中核は人材戦略となることをステークホルダーに理解してもらう必要があるからだ。まず、経営陣が新たな人材戦略を理解すると同時に、社内外利害関係者に対し人材戦略を可視化させ、より良い人材の獲得・育成に向けて建設的な対話を重ねることだろう。
日立製作所は2024年度までに、職務内容に応じて人材を起用する「ジョブ型雇用」を全グループ会社に広げると発表している。国内外の37万人に同じ雇用制度を適用し、海外子会社から優秀な人材を抜擢し易くすることで、グローバル化及びデジタル化の経営環境への適応力を高める動きが加速させていく。このジョブ型は、欧米では一般的な働き方で、職務記述書(Job Description)で職務ごとに必要な技能を明記する。賃金も基本的には職務実績に応じて決まり、需要が大きく高度な職務ほど給与が高くなる。同社の世界37万人が同じ雇用体系で働けるように、日本独特の年功序列色の強い雇用体系を是正するが、それには日本人社員もグローバルな競争力が必要になる訳だ。日立製作所は、国内上場企業で連結従業員数が2位と大勢だ。関連会社を含めた全社でジョブ型を導入することで、世界各地のグループ会社や拠点で適材適所な人材配置をし易くする。同社は、2020年にスイス重電大手のABBから送配電部門を、2021年に米IT企業のグローバルロジックを買収するなど海外M&Aを積極化したため直近3年間で10万人以上の海外人材が加わったことも背景にある。ジョブ型の採用によって国境を越えた人事異動が進めば、被買収企業の従業員のモチベーション向上と日立グループへの融合に繋がると目論む。ジョブと従業員のスキルとミスマッチの解消に向けたリスキリング、いわゆる学び直しも重要となる。必要なスキルは社外にも公開し、デジタルトランスフォーメーション(DX)など専門人材を広く募ることができる。日本企業にジョブ型雇用を機能させるためには、グローバル化及びDXなど企業の成長戦略に基づいて人事戦略を立てることが不可欠だろう。
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月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会