2022年8月報告

3.おわりに:

今月は、説明責任について考えてみる。疑惑を持たれた政治家は当然、国民への説明責任を果たすべきだ、とは、不祥事が起こるたびに故安倍晋三氏が国会で繰り返した答弁である。「一般論」と断った上での決まり文句だったが、故人は、今こそ自身の派閥を通じて有言実行すべきではないだろうか。

説明責任、答責性、アカウンタビリティ(accountability)を確認しよう:

政府・企業・団体・政治家・官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、株主や従業員や国民といった直接的関係者だけでなく、消費者、取引業者、銀行、地域住民など、間接的関係を持つ全ての人・組織、利害関係者にその活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考えである。本来のアカウンタビリティの意味としては、統治と倫理に関連し「説明をする責任と、倫理的な非難を受けうる、その内容に対する法的な責任、そして報告があることへの期待」を含む意味とされている。

現在の日本での説明責任は、広報活動(Public relations)の一要件でもあり、PR は、「倫理観」に支えられた「双方向の意思疎通」と「自己修正」を基礎とした関係構築活動であり、「説明責任」という要件が欠落すると、PR は本来の機能を果たさない。何故ならば、相手の理解と納得を得られなければ双方向性の意思伝達が成立しないであろうし、倫理観に欠けた行為からは、相手の理解と納得を到底得ることはできないからだ。説明責任を果たしていくためには上記の広報活動を意識しなければならないのだ。

マスコミ報道でも最近、毎日のように「説明責任」という言葉を聞くが、未だ明確な説明を聞くことはない。説明しないということは、

  • 当人が説明できないくらい中身がわかっていない、
  • 説明すると自身の悪がばれる、
  • 自分は当該者でないため説明できない、
  • 最初の言動と食い違うため逃げざるを得ない、
  • 逮捕されるのが怖いので法廷で説明するという逃げ腰

多くの政治家、主に国会議員がマスコミに追いかけられると後日きちんと説明する、と言いながらも体調不良や雲隠れで逃げてしまうのは誠に腹立たしい。恐らく上記の5つのどれかに当て嵌まるからであろ。

最近では5分程度のぶら下がりで終わらせているのも目に付く。「これでは本質のことが聞けない」とある新聞記者が漏らしていたが全くその通りだ。

公衆上の問題が生じれば直ちに対応し、その真相を明らかにする。これは危機管理の原則で、政治家にも十分当て嵌まる。問題が長引くことのマイナスを考えれば、1時間や2時間の記者会見時間はコスト面で十分に採算がとれるし、それこそ生産性が高いと言うるだろう。政治に対する国民の信頼を回復するためにも、問題を指摘された政治家には、是非とも自らの言葉で説明を尽くして欲しい。

或る与党の代表は、記者会見を開き、「某議員のコメントでは不十分で、会見の場に出てきて、説明責任を果たすべきではないか。疑惑が指摘されているので、本人が国民に対し、しっかり説明責任を果たすことが求められている」と指摘しているが、なしのつぶてが続いている。

民主主義の原則として、政府の説明責任とは、公選・非公選を問わず公職者には、自らの決定と行動を市民に対して説明する義務がある。政府の説明責任を実現するため、各種の政治的・法的・行政的な仕組みが使われ、腐敗を防止し、公職者が市民の声に反応できる、身近な存在であり続けることを目的として作られた。このような仕組みがなければ、腐敗が蔓延する。公職の任期制と選挙は、公職者に対し、自らの実績を説明する責任を課すが、他方の挑戦者に対しても、市民に別の政策の選択肢を提供する機会を与える。有権者が、公職者の実績に満足しなければ、任期終了時には、選挙によって公職を退かせることができるというものだ。

独立した司法制度は、法的説明責任の達成に不可欠な要件であり、市民が政府に苦情を申立てる場となるのは当然である。

ここで少し整理してみる:

法的説明責任の仕組み

  1. 公職者にとって許されない慣行を概説した、倫理法規や行動規範。
  2. 利害の対立や資産公開に関する法律。(これは、所得と資産の出所の公表を、公職者に義務付けることによって、彼らの行動が金銭的な利害に不当に影響されやすいかどうかを、市民が判断できるようにするもの)
  3. 政府の記録や会議を報道陣および一般市民に公開することを義務付ける、いわゆる「サンシャイン法」。
  4. 特定の政府の決定に、一般市民の意見を取り入れることを義務付ける、市民参加要件。
  5. 裁判所に、公職者と公的機関の決定と行動を審査する権限を与える司法審査権。

行政的な説明責任の仕組み

  1. 市民の苦情を聞き、対処する、省庁の行政査察官(オンブズマン)。
  2. 公共資金が悪用された気配がないか、その使途を綿密に調査する独立した会計監査員。
  3. 省庁の決定に対する市民の苦情を聞く行政裁判所。
  4. 政府内の汚職や職権乱用を思い切って報告した内部告発者を報復行為から守る倫理規則。

医療・福祉における説明責任

患者やサービス利用者に対する必要な情報の開示、十分な説明は勿論のこと 受け手がそれを理解・納得した上で内容に合意や拒否する自主性までを含む。 医療の場面ではインフォームド・コンセント と呼ばれることが多い。1990年代後半から社会福祉基礎構造改革のもと、福祉サービスが事業者による措置から利用者の自己決定によって契約を結ぶ形式に転換した。 これにより、福祉サービス事業者は利用者から選択される立場へと変化し、 行政に対する自らの行動の報告、利用者に対する説明応対など、双方でのアカウンタビリティが不可欠となった。 医療現場においても、医療従事者等が患者に対し治療や臨床試験・治験の内容について説明をする義務があるが、単に説明責任を果たすのみならず、説明を受けた患者側が十分に理解した上で合意するか否かを決定する権利までを重要視する。

専門職による説明義務という考え方

弁護士、税理士、医師などの専門家が業務を受任するにあたって、その内容について顧客等に十分に説明する責任つまり説明義務も、日本において2000年前後以降から重要性を増しており、これに違反した場合、説明義務違反として損害賠償の支払いを命じる判例が急増している。

元来、経営用語としての会計責任(アカウンタビリティ)は、経済学から派生した言葉のため、経営者が株主や投資家に対し企業の経営状態や財務内容を報告する義務、企業から他の利害関係者に状況を説明する責任として使われることも多い。企業の株主は経営者ではないため、財務状況や経営に関する情報が少なく不安要素が多いです。それらのフォローのためにも、経営者はアカウンタビリティによって企業の情報を開示しなければならないのだ。企業というものは、取り巻く利害関係者に対して、財務や経営の状況などを説明する義務があるが、義務だけでなく企業が自らの行動・選択・決定の基となる考えなどを明言する、という意味でも使われる。

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月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会