2022年6月報告

3.おわりに:

現下のウクライナ戦争に関して、物流面から考えてみた。ご存知の通り、ロシアとウクライナは、両国だけで世界の小麦輸出全体のおよそ4分の1から3分の1を占めている。戦争は世界市民をも食糧難に巻き込んでいる。我が国の食料事情はと言うと、小麦・トウモロコシ・大豆のいずれも米国・カナダ・ブラジル等からの輸入に依存しているが、今般のロシアとウクライナの穀物輸出の停滞により国際市場での代替輸入先・品目に需要が集中し、結果として価格高騰や安定的供給が困難になる可能性が予想されている。ウクライナの農場地帯では、秋の収穫期から倉庫に蓄えられ出荷を待つトウモロコシが合計1500万トンに上る。その半分程度は外国に輸出されるはずだったが、買手への引き渡しは難しさを増している。両国からの供給の乱れは、既に問題化していたサプライチェーンの障害や運賃高騰、異常気象と相まって、世界が食糧難に陥るとの見通しを強めているというのが専門家の見通しだ。

そこで、毎朝のように海外報道に接しているが、穀物物流に関して次の興味ある報道を知った。

ウクライナの戦争にてルーマニア国の港がウクライナの穀物を引き継ぐ、というものだ。各国が接する黒海の海岸では、ウクライナでの戦争が始まって以来、ロシアの船の脅威が存在してきた。ロシアは穀物の輸出を阻止しているため、ルーマニアのコンスタンツァ港が引き継ぐことを試みているというものだ。ルーマニアのコンスタンツァ港にある貨物船内には数千トンのトウモロコシがある。昨年、ウクライナは世界の資源の30%を占め、今年、輸出はちょうど回復した。コンスタンツァは、黒海で最も近代的な港だが、ルーマニアの農業にのみ役立つと考えられていたが、現在、ウクライナの穀物に対応するため、更に多くのことを行う必要があると言うのだ。 ルーマニアこそ可能な唯一の方法と言え、輸出の主要で可能なルートなのだが、それほど単純な話ではない。つまり、ルーマニアとウクライナの間の鉄道線路のゲージが異なり、国境を越えたら、列車を乗り換えて全てを移動する必要があると言うのだ。

一方で、ロシアの黒海封鎖の影響でウクライナの小麦輸出が滞るなか、隣国ポーランドの港から小麦の輸出が始まったものの、本来、輸出に使うオデーサ港に比べると規模が小さく、一日に取り扱える量は10分の1程度に留まるため、ポーランド政府などが港の拡張工事の計画を進めている。

ここで筆者が強調したいのは、日本での物流手段の狭さだ。グローバル購買資格CPSMセミナーでも学習しているが、五つの物流手段の再確認と実行が必須だ。五つの輸送手段とは、言うまでもなく、トラック輸送、鉄道輸送、海上輸送(海と河)、航空機輸送、加えてパイプラインのことだが、最後者に言及すると、欧州の天然ガス調達は、輸送コストが安いパイプライン経由が主流となっている。欧州の天然ガス消費量の3分1程度はロシアからの輸入に頼り、大部分が同国と欧州諸国を結ぶパイプラインで輸送されている。欧州諸国は、このパイプライン経由でロシアから天然ガスを年間約1億2300万トン輸入する。約3分の1がドイツ向けで、ドイツは消費量の6割以上をロシアに頼っている。

上述したように、黒海沿岸のマリウポリやオデーサの港から小麦などの穀物の輸出が困難な状況が続いているためドナウ川の水運などを使って隣国のルーマニアのコンスタンツァ港まで運びここから世界へ輸出する方法が取られていると言う。

島国である我が国では想像がつかないところもあるが、大陸では国境を跨ぐ商取引は常道であり、対象物にも因るがパイプラインも重要な手段であると同時に、河川輸送も侮るべきでない。筆者は、以前、日本物流学会の全国大会で河川交通と河川輸送について発表したことがある。欧州では古くから河川輸送が盛んであったのは大河が多く、運河を作れば地方の末端まで運べるからだ。今で言うラストワンマイルという発想だ。国土交通省の役人が日本列島の周りの海を物流手段にすることを提案していたのを思い出すが、事程左様に戦時下においては、新しい発想や過去に思いついたが実現しなかった手段が現実に日の目を見ることがある。そういう意味でも兵站(ロジスティクス)の基本知識を学び、常にしたためておくことは非常時に有益となると思う。

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月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA 特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会