2021年12月報告

3.おわりに:

奇しくも80年前の真珠湾攻撃の日、12月8日に横浜で講演する機会を得た。演題は「経済安全保障とグローバルサプライチェーン」とまさに現在の喫緊の課題を取り上げたもので時期尚早かと思ったが受けてしまった以上話すことにした。政治的な課題のため150名の受講者を前に内容を慎重に吟味したが、過激なマスコミ報道記事を除外して日本の国家観を中心に進めたつもりだったが、出た質問として「海外移転か国内回帰か」「内外作:outsourcing or insourcing」という点でサプライマネジメントに焦点を当てたもので若干安心した。以下に概要を示しておく:

『第二次世界大戦で日本が敗北したのは、貧弱な兵站のせいだと言われている。特に、史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツをはじめとする戦史家の多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にする。これを日本企業に置き換えると、「企業経営のプロフェッショナルは、戦略的物流・兵站ロジスティクスを語り、一般社員は戦略を語る」と言えるのではないだろうか。

物的流通(物流)には、海・陸・空に加えてパイプラインも含まれる。単にA地点からB地点へ資機材を移動するというものの、国内と違い、世界規模になると視点を変えなければいけない。つまり、国内をはるかに越えたグローバル、地球規模でのリスクが伴うのである。

先の兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。所謂フロントラインの裏方として正に緊要な業務部隊なのだ。

現下の経済安全保障とは、サプライチェーン経営に合わせた国家の政策と展望、サプライヤーとの持続的で良好な関係を維持し促進させ、地球規模でのサプライヤー開拓精神の発展、地政学的リスクの監視、兵站に回帰したロジスティックスの意義の徹底であると考える。

コロナ・ワクチンを巡るサプライチェーンの話は、製造業への示唆に満ちている。例えば、製造業では調達先として欧米やアセアン諸国のサプライヤーを選定する機会が多いが、目下の新型コロナウイルス下では簡単に国外に行けない。新型コロナウイルス感染症が拡大していた当初は、中国からの物資が届かないなどの問題が出ていた。

その後、感染が全世界に広がったためのワクチンが誕生し、その課題がサプライチェーンであることを改めて強調したい。新型コロナウイルス感染症が世界に拡大したのは、社会経済の地球規模化が背景にあるだろう。しかし、それを収束させられるかどうかも世界規模のサプライチェーンにかかっていると言える。これまでサプライチェーン経営や効率性など、あまり重視されてこなかったが、そうこうする内にサプライチェーンそのものがグローバル経済全体を左右する要因になってきたと言えるのではないだろうか。』

以下余白

月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA

特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会