2021年11月報告

3.おわりに:

やっぱりか!憂いていたことが現実に起こる。日本大学付属病院の建て替え工事を巡り、東京地検特捜部が背任容疑で同大理事を逮捕した。日大が全額出資で設立した「日本大学事業部」の設立直後から、同社の理事長付相談役兼事業企画部部長などの役職に就き、外部の業者からの物品調達の契約業務などを担当したと言う。

この報道を見て多くの企業購買職が気づいたことを想像すると、購買調達業務には倫理観が絶対必要と言うことだろう。振り返ってみると、性善説の普及していた昭和の頃も、性悪説への転換が騒がれた。つまり、人間には魔が差すことが往々にしてあり、性善説が通用しなくなった社会のことである。そもそも購買調達という機能は、社内よりも社外での意思疎通や交渉事が多く、時間配分も社外のサプライヤーとのやり取りの方が多い世界だ。部下を信頼しているからこそ、不祥事は起きないのであって、欧米など海外諸国のように、頻繁に転職する、中途採用が多い国の風土では、上司は部下を相当に監視をしている。伝統的に日本企業は家族社会と言われ、同じ釜の飯を食うという仲間意識が強い。同大の建設工事の設計業務は日大の物品調達や大学施設の管理・運営などを担う関連会社、日大事業部が2020年、都内の設計会社に約20億円で発注。逮捕された理事は、その内約2億円を、大阪市の医療法人グループの理事長が株式を保有する関連会社に移動させるよう依頼した疑いが持たれている。

東京地検特捜部は、医療法人グループのコンサルタント会社を家宅捜索、またこれまで大学本部と日大事業部、日大理事長の自宅、上記の理事が所有するマンションと兵庫県芦屋市の自宅、経営する大阪市内のスポーツ用品販売会社を家宅捜索したとのこと。板橋病院を舞台にした国内最大のマンモス大学をめぐる不透明なカネの流れは、どこまで解明されるのだろうか。

大学などの学校法人や医療施設でも同じことが行われていると見る報道が多いが、それだけ購買職は襟を正さないといけない職種だ。古今東西、買手は売手より優位に立つのは変わらないだろう。    特に、アセアン諸国で事業を展開する日本人経営者は、現地人部下と同じくらい日本人社員の行動にも目を光らせないといけなくなる。海外に出て自由になった気になり誘惑にかられる社員が多いからだ。

購買職倫理教育は非常に重要だが、経営者がどこまで真剣に受け止めているか、この機会に見直してみるべきものである。

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月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA

特定非営利活動法人 日本サプライマネジメント協会