景気動向指数 2109

3.おわりに:外交と交渉に弱い国

日本の外交が弱いと噂されている。戦前と戦後を比べても、それほど変わっていない気がする。これは日本人特有の気質か、または古来日本の特徴か。考えてみる。

アフガニスタンのガニ政権が崩壊し、反政府勢力タリバンが全権を握ったことで大量の難民が発生する事態が起きるかも知れない。新型コロナウイルス疫病に続き、有事に弱い日本国の実態が露呈されるのではないか危惧される。冒頭に挙げたように外交は交渉事であり、適度な訓練を積んで交渉術を常に磨いていることが大切だ。

以前にも書いたが、東京五輪でもIOCへの政府の交渉力が問われたが、「沈黙は金」を固辞したようだ。それは、決して金メダルものではないと言いたい。言うべきことは言う姿勢は大切で、現下の新型コロナウイルス疫病についても同じことで、ワクチン供給企業に対して日本政府の姿勢を明確に述べて交渉に持っていく、アフガニスタンからの邦人救出でも同じで、有事の際に如何に巧く交渉できるかが問われていると思う。

近年、近隣国が交渉を巧く行っているのは背景がある。戦前、戦中であれば不可能だったこと、戦後間もない時点でも経済的に、また軍事的に欧米より劣っている時代では寡黙であったし、交渉の場にも立てなかった。日本国が積極的に経済支援、技術支援をしたからこそ交渉できる地位を得たと言える。

一方で日本政府の方はどうか。有事の際、日本国憲法と各種法規制で思うように動きが取れないと言われている。それは本当か訝しい。超法規的措置も真剣に考え、討論するべきだろう。

その中でも英国の報道は感銘する。イギリスの大使がアフガニスタン現地カブールに留まり、退避を希望する人へのビザの発給作業を続けているという事実だ。駐アフガニスタン、ブリストー英国大使曰く「我々にかつて協力してくれたアフガニスタンの人が安全に脱出できるよう全力を尽くす」同大使は、カブール空港を拠点に700人分のビザを発給したことを自身のツイッターで明らかにした。イギリス人以外にもイギリス軍の元通訳など政府に協力していたアフガニスタン人も対象で、発給のペースを加速していくと強調する。8月13日以降、既に6000人近くが同市から脱出したと言う。

今でも思い出されるのは2013年に発生したアルジェリアのテロ災害だ。この事件で邦人に多くの犠牲者が出たが、政府は現地情報の収集で後手に回った。1996年にはペルーの首都、リマで天皇誕生日祝賀パーティを開いていた日本大使公邸が左翼ゲリラ「トゥパク・アマル革命運動」が襲撃し,700人以上もの出席者と大使館関係者を人質にされるという事件が起きたが、この時も外務省は右往左往するだけでまともな情報も取れなかった。この時、政府の対外情報収集・分析能力の低さが問題視されたが、何ら対策が取られることもなくアルジェリアのテロ事件でも同じことが繰り返されたのだ。

一般的に言うと、欧米を含む殆どの海外の大使館には大使の他、駐在武官がおり、在外公館に駐在して軍事に関する情報交換や情報収集を担当する。通常は、軍人としての身分と外交官としての身分を併有する。軍事アタッシェやミリタリーアタッシェ、軍人外交官とも言われる。日本でも第二次世界大戦以前は、帝国陸軍・海軍から派遣され、「○○国在勤帝国大使館附陸軍武官」及び「○○国在勤帝国大使館附海軍武官」等と呼称したが、戦後1954年以降、防衛省からの自衛官の派遣となり、現在は「防衛駐在官」と呼称する。大使館内における各省庁から派遣されている官僚の立場と地位が不明だが、欧米並みの武官としての位置づけがあるのかどうか。

元来、外務省は「外交の一元化」のもとに対外情報を独占しているが、軍事を毛嫌いする「お公家体質」のためか軍事関係の情報収集・分析能力が低い。アルジェリアの時も外務省は接触してきた外国の情報機関を拒絶したりした。筆者はアルジェリア情報に詳しいフランス人情報筋からこの話を聞いている。思い起こせば、筆者がアフリカに駐在していた頃も、国内で紛争がたびたび起こった。1977年3月〜5月と1978年5月の2度に亘ってザイール(コンゴ民主共和国)南東部のシャバ州に同国の反政府組織コンゴ解放民族戦線が隣国アンゴラの基地から進攻した事件だ。いずれも当初ザイール軍は劣勢に立ったが、第一回進攻ではモロッコ軍の、第二回進攻ではベルギー・フランスの降下部隊の支援により民族戦線は撃退された。

当時、筆者の会社でも日本人社員に車のガソリン満タン命令が出ており、「いつでも隣国ザンビアへ逃げる準備をしておけ」との達示。最悪の場合は、米国領事館へ逃げ込むこと。市内に日本の領事がいるものの、同人は単身赴任でたった一人、住居兼領事館であり、食事は筆者の鉱山の社食を頻繁に食べに来ていた。古くなった日経新聞をあげると喜んで持ち帰って行ったのを覚えている。日本の外務省はアフリカの国には経費を大幅に節約しているとのことだった。   

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月報編集室:主筆 上原 修 CPSM, C.P.M. JGA

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